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無くす

    

    指輪をなくした。


    あの日、縁日で君が買ってくれた安っぽい指輪。
    左手の小指にきらきら光るあの指輪。
    間違えてピンキーリングを買ってしまって、慌ててた姿がえらく面白くて、
    あたしは大笑いしたけど、すごく嬉しかったんだよ。

    「今度はちゃんと薬指にしろよ」って、あたしの誕生日までずっとバイトして買ってくれたリングも嬉しかったけど。
    でもほんとはそれよりもっと大事にしてたんだよ。ほんとは。ね。


    幸せは右の小指から入って、左の小指から抜けてくんだって。
    まあ、友達から教えてもらったんだけどさ。

    だから、あたしは君との最初のデートであの指輪を買ってもらってから、ずっと幸せを溜めてきたってことだね。

    すっと小指から抜け落ちる感覚も、ひやりと慣れない場所に触れる冷たさも、未だにはっきりと覚えているのに、
    指輪は夜闇の中、淀んだ川にあっという間に飲み込まれていって、もう陰も形もないんだね。

    軽くなった小指がなんだかすうすうする。



    きっと君を失うときもあたしはこんな風だね。

    するりと去っていく感覚がいつまでも生々しく残っているのに、
    その瞬間でさえも感じているのに、どうにもできないかんじ。

    すごくよくわかるよ。今は。

    ね。